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〜イギリスピアノ音楽シリーズT〜
レノックス・バークリー
マーチ
ヴィエ・ピルキントンのために (1924)
 

ピアノのための小品"マーチ"はバークリーの作品の中でも、現在残されている最も初期の作品として知られています。
この作品は1924年の作品でバークリーがオックスフォードに入学してからちょうど二年目の作品に当たります。初版の原稿には1924年、4月と印刷されています。また"マーチ"はバークリーのオックスフォード時代にフラット・シェアをしていた友人のヴィエ・ピルキントンに捧げられています。ピルキントンは当時アーリー・ミュージック(古楽)の復興にも熱心な活動を繰り広げており、ハープシコードの優れた奏者でもありました。作品は初期の小品ながら、バークリーのフレッシュな感性と一種独特のアイロニーを含むオリジナリティーを既に垣間見ることのできる興味深い楽曲です。この作品を含む1920年代から30年代前半に掛けて書かれた作品番号が記されていない多くの曲は彼の恩師、ナディア・ブーランジェ女史のもとに預けられ、1979年にバークリーの手許に戻されるまで忘れられていました。バークリー85歳の誕生日を記念し、これらの初期の作品群は1988年5月12日から三週間、BBC3のラジオ局で4回にわたるシリーズとしてプログラムが組まれました。この"マーチ"(1924)もその時に他の初期の作品と共に放送されています。このプログラムに取り組んだピーター・ディキンソン(作曲家、ライター、ピアニスト)はこのときのラジオ放送で初めて聴かれ、知られることとなるバークリーの作品がいくつかあったことを伝えています。また初期の作品群で失われてしまった楽譜も多数あり、その一例にオックスフォード時代に書かれた"ピアノデュエットのための2つのダンス"(1925年3月12日)、"オルガンの為の4つの小品"(1925)、"オーデンの詩による2つの歌曲"(1926)などがあり、"チェンバー・オーケストラの為のコンチェルティーノ"(1927年4月6日)、"無伴奏ヴァイオリンの為のソナティナ"(1927)などの楽譜も失われています。失われている楽譜、バークリーの"序奏とダンス"は1926年の4月6日にアンソニー・バーナード指揮によるロンドン・チェンバー・オーケストラにより初演が行われましたが、この年から1950年に掛けてバークリーの作品、全7曲の初演がこの指揮者のもとで実現されることとなります。"ディヴェルティメント"作品18(1943)はアンソニー・バーナード指揮によるバークリー初の録音作品(Decca,K1882-3)となりました。


4/4拍子のホ短調の旋律は民謡的な要素の濃い楽曲です。冒頭のホ短調の旋律は強めのアーティキュレーション(マルカート)で特徴づけられ、メロディーはロ長調に移調され冒頭とは対照的にデリケート(ドルチェ)に歌われます。そのコントラストはグリッサンドを伴うクライマックスに向けて色彩感溢れる効果を挙げていき終結はピアニッシモで閉じられます。左手の五度音程、民謡的な要素など例えば英国の民謡を代表するヴォーン・ウイリアムズのバリトンの為の歌曲集「旅の歌」から"Vagabond"(1904年)にも共通する精神が垣間見られ、バークリーの英国人、ケルト民族(スコティッシュ)としてのアイデンティティーが反映されている作品ともいえるでしょう。


試聴用データ→
マーチ


井田久美子     2006年 3月

 

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