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〜イギリスピアノ音楽シリーズT〜
レノックス・バークリー
ピアノソナタ作品20 イ長調 (1941〜1945) 
 

オックスフォードを卒業した後、バークリーはパリのナディア・ブーランジェのもとで7年間(1927〜1934)、作曲を師事しました。この機会に対位法の厳格なレッスンをブーランジェ女史から受けることにより、バークリーは、もともと彼に備わっていたメロディーやハーモニーにおける優れた感覚に磨きをかけていくことになります。1930年代後半から1940年代にかけて彼の名声はその作品と共に次第に高まっていくことになります。その当時の主要作品にはこの「ピアノソナタ作品20」を含め、「弦楽のためのセレナード作品12」(1939)、「交響曲第1番作品16」(1940)、「ディヴェルティメント作品18」(1943)、「アヴィラの聖テレサの4つの詩」(1947)などがあります。バークリーはフランス音楽やフランス文化の影響ではない、彼独自の語法に基づく一貫したスタイルを再認識し完成度の高い音楽表現を実現させました。また後に、その実現の背景に少なからず影響を与えたブリテンとの出会いの重要さについて触れています。彼は初期の作品に見られるチャームやウィットを失うことなく更に大規模でドラマティックな曲を書きあげていくことに成功しました。

「ソナタ作品20」は1941年〜1945年にかけて作曲されました。コントラストに溢れる4楽章からなるソナタは25分にも及ぶ大規模なものでバークリーのピアノ曲中でも最も重要とされている作品です。ソナタはピアニストのクリフォード・カーゾン(1907〜1982)に献呈されており、1946年、カーゾンによる初演がロンドンのウィグモア・ホールで行われました。ソナタ初演後、バークリーの綿密な指示のもとになされたコリン・ホースリーによるソナタの録音(1959)が実現されています。 曲の概略的な構成は古典様式のソナタに基づく手法に則りますが、バークリー独自の洗練された作曲技法で書かれており、確信に満ち溢れた作品に仕上がっています。バークリーのもとで学んだ英国作曲家のマルコム・ウイリアムソンはこのピアノソナタについて次のように述べています。"このソナタは20世紀英国ピアノ音楽のレパートリーにおける画期的な標識とも言える非常に重要な作品で、全く文句なしの驚嘆すべき傑作です。・・・他に言うことなどあるでしょうか。"

 

第一楽章  モデラート ― ポコ・メノ・モッソ ― レント

第一楽章のモデラートは、概略的にはソナタ形式で構成されていますが、展開部では正統的というよりは有機的なフレーズの繋がり方をしており、伝統的な古典様式の手法を離れています。このソナタの全楽章を通して重要なファクターとなるモティーフが第一楽章の一小節目に提示されています。イ長調でのファンファーレを想起させる上行する六度音程(E-C#-A-E)のモティーフがこの第一楽章のみにではなく全曲を通して表れますが、それは変容させながら後に繰り返されることになります。ファンファーレのような六度音程は、その変幻自在な魅力的なテクスチャーで作品に即興的な性格や効果を与えています。第二テーマは更に音楽的な拡がりを持ち、随所に不協和音が散りばめられていきます。主題は再現部において提示部と同様には繰り返されてはいません。バークリーは主題のメロディー、そしてリズムや調整の断片を再現部で駆使することによってテーマを暗示させる効果を上げています。謎めいた静かさの中、一楽章は閉じられます。

試聴用データ→ 「第1楽章」

 

第二楽章  プレスト

第二楽章のテンポ表示はプレスト,無窮動でスケルツォ的な性格をもつ楽章。第一楽章と同様、再び六度音程で始まります。半音階的なメロディーは右手の速いパッセージの中に浮き彫りにされており、後に左手(ベース)において二分音符で表されます。この楽章で出現する速いモティーフのパッセージが最終楽章のターニング・ポイントとも言える重要な箇所で再現され、このソナタの終結部(コーダ)へと向かわせる推進力となっています。

試聴用データ→「第2楽章」

 

第三楽章  アダージョ

ホ単調のアダージョは感覚的な調整の変化を伴い、また悠遠にあるものの魅力をたたえた美しい楽章です。メロディックで雰囲気のある完成度の高いこの楽章はバークリーの楽曲スタイルを象徴する、彼特有の語法で綴られています。

試聴用データ→「第3楽章」

 

第四楽章  序奏とアレグロ―序奏のテンポで―アレグロ

最終楽章、序奏とアレグロは"ロンド形式"で書かれています。リズミカルなロンドの主題"アレグロ"に展開する前の序奏では形を変えた第一楽章、モデラートでのモティーフを提示しています。最終楽章の終結部ではこれまでのエピソードを回想するかのような休止の後、再度、序奏のテーマ(Tenpo del Introduzione)が出現します。ソナタ全曲を通して核心となっている主題のモティーフ(六度音程)を用いて曲を締めくくることにより、この作品のコンセプト(概念)のスケールの大きさに驚かされるだけでなく更に一層テーマを聴き手に印象づける効果も与えています。

試聴用データ→「第4楽章」

 

井田久美子    2005年、 8月

 

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