翌年の1936年には、バークリーはベンジャミン・ブリテンと出会い、彼から音楽的影響を受け、友情を築いていきますが、その頃ブリテンはイギリスの作家、詩人であるW. 
                        H. オーデンから彼の創作へのインスピレーションを多大に与えられています。ブリテンは1935年、7月にGPO(ジェネラル・ポスト・オフィス)によるドキュメンタリー短編映画“夜間郵便列車”(Night 
                        Mail)の音楽を担当し、(テクストはオーデンによる)この機会に初めてオーデンと出会っています。この後ブリテン、オーデン二人のコラボレーションにより“この島で”(On 
                        This Island) など多くの歌曲集が作られていきます。ブリテンの初期の重要な代表作、“Our Hunting 
                        Fathers”作品8(1936)はオーデンの詩“狩をする先祖”(1934)に基づいた作品です。バークリーもまたオーデンの詩をもとに歌曲“Lay 
                        your sleeping head,my love”作品14No2b (1937)を作曲、ブリテンに献呈しています。ブリテンは1939年から1942年までアメリカで過ごし、オーデンとの共同制作、映画や演劇のための劇場音楽を作曲しています。一方バークリーは手紙でブリテンと連絡をとりあい英国での作曲活動を展開してゆきますが、この後“弦楽のためのセレナーデ”作品12(1939)など多くの名曲を書き残していくことになります。
                      
                        (T) エチュード  ハリエット・コーへンへ
                      アレグロ・モデラート  
                        
                      逆方向に進行する(コントラリー・モーション)両手オクターブの半音階の旋律が緊張感を生み、重厚な響きを展開させる作品です。曲はデュナミークのコントラストに富み、スフォルツァンドやスビト・ピアノなども多く書き込まれており効果的な影響をもたらしています。スケルツォ的な中間部を経て冒頭の旋律が戻りますが、終結ではあたかも空中分解するように和音が炸裂し決然とハ音のコードで閉じられています。バークリーの初期の作品は全般に簡素で抑制が効いていることが特徴として挙げられますが、その後期の作品においては、そのような特質を保ちながら表現のニュアンスは更に陰影を増し、曲には謎めいた雰囲気が加味されていきます。その一例として1947年の“4つのアヴィラの聖テレサの詩”などが挙げられるでしょう。この作品2の第一曲目、“エチュード”は後期の作品に見られる陰影をすでに予感させています。 
                         
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                        (T)
                       
                       
                        (U) 子守唄  アラン・サールへ
                      アレグレット 
                        
                      第二曲目は三部形式の構成。曲は二つの拍子記号、3/4、7/8とが交互に頻繁に入れ替わることが特徴でまさに揺りかごが優しく揺れ動くさまを効果的に描写しています。冒頭のソプラノのメロディーはドルチェではじまり、陰影のある中間部は曲にコントラストとインパクトを与えています。提示部の変ホ長調の旋律が一オクターブ高い音域で再現され曲は穏やかに閉じられます。バークリー独特の叙情性に富んだシンプルで清澄な作品です。 
                        
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                        (U)
                       
                      (V) カプリッチオ  ヴィエ・ピルキントンへ
                       
                        アレグロ 
                      序奏のような上行するパッセージが第一小節目に置かれ、カプリッチオの主題に入っていきます。この作品では拍子記号は変化せず終始12/8拍子にとどまります。全般にデュナミークの変化に富んでおり、またアクセント、スフォルツァンド、ポルタメントなど、音質(タッチ)への多様なアゴーギク(agogic)のニュアンスも見逃せないポイントといえるでしょう。第二曲目とは異なり広範囲にわたる音域を駆使した書き方も曲にダイナミズムを与えています。曲はタイトルが示すように気紛れな気分を反映しています。休符やシンコペーションの用い方も楽曲に効果をもたらし、リズミックで躍動感あふれる作品に仕上がっています。
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                        (V)
                       
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                        (T)〜(V)
                       
                      井田久美子    2005年 11月  
                         
                      
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