(T) プレスト デイビッド・ポンソンビーへ
4分4拍子,プレストの第一曲目は無窮動の半音階のための練習曲です。16分音符のフィガレーションは流動的で、フォルテで始まる冒頭から19小節目までのクライマックスは緊張感にあふれています。フォルテシモでの頂点に達した後、穏やかに歌われるレガートでの旋律は冒頭のテーマ、16分音符のフィガレーションが4分音符に置き換えられた形で繰り返されます。リズミックなヴァイタリティーはこの楽曲において不可欠といえるでしょう。静と動の半音階が輪を描くようなフレージングと素早く切り替わるフォルテでのアルペジオが効果的なコントラストを与えるエチュードです。
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(U) アンダンテ ベップ・グエアへ
4曲の中ではテンポも最も緩やかで落ち着いた印象を持つ第二曲目は8分6拍子、左手での旋律はピアニッシモでレガートでのオープニングです。中間部ではバークリーが緊張感と特有のリリシズムを表現する際に頻繁に用いた六度音程が両手で奏され、その後アクセントを伴う反進行でのクライマックスを迎えます。コーダ(ウン・ポコ・ピュウ・レント)において、ピアニッシモでの六度の右手の伴奏はメロディーと共に消え入るように終結します。交互に顕れる半音と全音が生み出すニュアンスが独特な雰囲気を醸し出すエニグマティックな楽曲です。
試聴用データ→(U)
(V) アレグロ マーク・シャンテリアへ
第三曲目もアンダンテと同様の8分6拍子ですが第二曲目とは全く異なる性格の作品です。1拍目と2拍目にアクセントがつく軽やかなリズムとは対照的に16分音符の無窮動(Moto・Perpetuo)の旋律がレガートに奏されます。曲を通してダイナミクスはピアノからフォルテシモまで幅広く、その頻繁な音量の変化のコントロールと軽やかな音質(タッチ)、そして一定のテンピを保つ為の極めて効果的なスタディーともいえるでしょう。テンポ表示はプレストではなく、あくまでアレグロであるので軽やかではあっても速過ぎない楽曲です。音質のコントラストが際立つ魅惑的な作品です。ちなみに英国のピアニストのクリフォード・カーゾンはこの第三曲目に"レジェーロ"と書き加えています。
試聴用データ→(V)
(W) アレグロ クロード・バークリーへ
練習曲集の最終曲は再びアレグロで三度と七度の重度音程の為の練習曲です。"ノン・レガート"というマーキングはデリケートで多少ドライな右手の音質を示唆しています。左手、スパンの広い十度の音程は鍵盤からごく近い打鍵を要求します。全曲を通して鍵盤の広範囲を用いてドラマティックな効果を上げています。前半とは対照的に中間部では左手の旋律と共に右手の三度と七度の重音はレガートでリリカルに奏されます。全四曲を通してまさに音のスペクタクルともいえるこの練習曲集はピアニスティックな効果を上げたバークリー特有の作曲技法が傑出された作品です。
試聴用データ→(W)
試聴用データ→(T)〜(W)
井田久美子 2006年 5月
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