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〜イギリスピアノ音楽シリーズT〜
レノックス・バークリー  六つの前奏曲 作品23
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(T) アレグロ

無窮動(moto-perpetuo)のような右手による16分音符の繊細なパッセージのオープニングは左手の旋律を効果的に縁取っています。第一番全曲を通して旋律は右手、左手と交互に移行し、それに伴う息の長いレガートのパッセージは常に流動的です。流麗で自然なバークリーのピアニスティックな音楽はクリスタルの輝きにも似た響きがあり、それはラヴェルの音楽の繊細さを想い起こすことも出来るといえるでしょう。バークリー独自の楽曲の特長の一つに、比較的短いモティーフを息の長い歌うようなフレーズに変貌させることが挙げられますが、この第一番においてもその特長は明らかにされています。第一曲目の冒頭から終結まで常に関わり、この曲の骨組みとなる重要なファクターとも言える短3度と長3度の交互の組み合わせによるモティーフは作品の調性に陰影を与えると共に曲全体に霧のようなヴェールで覆われたような雰囲気を醸し出しています。

試聴用データ→(T)

 

(U) アンダンテ

第二曲目はピアノ・ソナタと同じイ長調で書かれています。メランコリックな右手の旋律はカンタービレ、息の長いレガートで奏されます。この曲でもバークリーの調性の扱い方に特徴が顕れています。冒頭のファ#を和音に含むことによりイ長調なのか、平行調の嬰へ短調なのか、ここでも再び一番と同じ技法、短調と長調を交互に取り入れることにより調性の輪郭は曖昧にされています。後にメロディーを縁取るモティーフは変ロ長調で現れ、最後にそのモティーフを用いたベースとソプラノを背景に、アルトに置かれた冒頭の旋律は"輪郭を浮き立つように歌わせ"("en dehors")、ピアニッシモで閉じられています。

試聴用データ→(U)

 

(V) アレグロ・モデラート

前奏曲集の第三曲目はヘ長調のトッカータ風のピアノ曲です。全六曲中、最も技巧的でピアニスティックな第三番は魅力的なピアノのためのエチュードともいえるでしょう。調整が不確定な中間部におけるパッセージは両手の逆行する半音階で成り立っています。そのパッセージは移調を伴う上昇を試み、作品に緊張感を与え、聴き手を半音階の旋回の渦へといざないます。バークリーの繊細で柔軟性を持つ調性の感覚は作品に変幻自在な要素を与えています。後半に冒頭のモティーフはイ長調を経てから最頂点であるハ長調に至り、基調のへ長調に戻ります。モティーフのリズムが高音域で反復され軽快でデリケートなエンディングとなっています。

試聴用データ→(V)

 

(W) アレグレット

第四曲目はホ長調の3/4拍子、ノスタルジーに溢れたマズルカ風の優美な小品です。メロディーの複付点八分音符が特徴的で曲に軽やかさをあたえています。曲の和音構成、そのハーモニーの移り変わりなどは全体にプーランクのピアノ曲を彷彿とさせています。この作品はプーランクの1928年の"三つのピアノのための小品"(Trois Pieces for piano)の第2曲目"Hymne"と類似している部分もあり、バークリーの前奏曲、第4番はプーランクのこのピアノ小品から直接のインスピレーションを与えられていると考えられています。

試聴用データ→(W)

 

(X) アレグロ

ロンド形式(A,B,A)で成り立つ第五曲目は前奏曲中唯一、拍子記号の変化に富むことを特徴とする作品です。変ロ長調の冒頭のモティーフは三小節の7/8拍子と一小節の5/8拍子で構成されています。その後、17小節における6/8拍子の中間部を経て冒頭のモティーフが再現されます。曲中にリテヌート(rit)が全くないため、作品のテンポ感と音量のグラデーションがキー・ポイントともいえるでしょう。抑制が効いていながらも第五番はダイナミクスに富んだリズミックで遊び心のあるチャーミングな楽曲です。

試聴用データ→(X)

 

(Y) アンダンテ

前奏曲の最後の作品、変イ長調の第六曲目をバークリーは"エピローグ"と名づけています。前曲とコントラストのある第六番は6/8拍子で書かれており、その一定で変わることのないリズミックパターンは、ゆったりしたシシリアーノ風の情緒を醸し出しています。最後の曲はおそらく第一番とのバランスを考慮に入れたと思われ、テンポの速いリズミックな作品ではなく、叙情的な落ち着いた曲であることもバークリー作品の特徴といえるでしょう。前奏曲集の"エピローグ"、最終曲に相応しい魅力的な小品に仕上がっています。

試聴用データ→(Y)


試聴用データ→(T)〜(Y)

 

井田久美子 2005年 12月


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