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〜イギリスピアノ音楽シリーズT〜
レノックス・バークリー
マズルカ  作品101/2 (1982)
 

BBCラジオ局の委嘱によりバークリーはハイドンの生誕250年記念としてピアノ曲“マズルカ”を作曲しました。この曲は1982年3月18日、BBCラジオによる放送で、英国の作曲家、ピアニストであるジョン・マッケイブによる演奏で初演されました。作品101/2の“マズルカ”が書かれる33年前にもバークリーは“三つのマズルカ”作品32/1をショパン生誕100年記念、UNESCOでのコンサートのために作曲しています。このマズルカ作品101/2はバークリーの79歳のときの曲、作曲家の最後のピアノ曲となります。彼の初期の小品“マーチ”が溌剌とした精彩さに溢れているのに対してこの“マズルカ”は憂いに満ち、郷愁を誘うような趣きが感じ取れるのは単なる錯覚ではないように思われます。因みに作品101/1は1981年に作曲された“2台のピアノの為のバガテル”です。この曲が書かれる6年前の1976年には生涯の友人、ブリテンが亡くなっています。そして、この曲が作曲されて間もない3年後の1985年にはアルツハイマーが重症となり作曲活動が完全に絶たれる状況となりました。1979年にバークリーはENO(イングリッシュ・ナショナル・オペラ・カンパニー)の委嘱によりオペラ、“ファルドン・パーク”(Faldon・Park)に取り掛かりますが、数年後に悪化する病状のために未完成となっています。その他の後期の作品にジェームズ・ゴールウェイによる初演が果たされた1978年の"フルートとピアノの為のソナタ"作品97、フランスの詩人、ルイ・ラヴィのテクストに基づく"ソネット"作品102(1982)がバークリー最後の歌曲として残されました。この後の完成された作品はケンブリッジ・キングス・カレッジ聖歌隊の為に書かれたSATBとオルガン用の短いキャロル"In Wintertime"作品103(1983)があります。バークリーはモーツァルトやバッハ、フォーレやラヴェルを代表するフランスの作曲家と同様にショパンの音楽を生涯、作曲のインスピレーションとしていました。この作品101/2もショパンが祖国への郷愁をマズルカで表現したように、バークリーもまたショパンへのオマージュと共に彼のフランスへの想いを綴っているかのように響いてくる深みのある小品です。


3/4拍子、ト長調、2分に満たない小品"マズルカ"はシンプルな和声進行、リフレクティブな旋律で終始します。全般に音符は少なく、その為に音楽のモメントゥム(間)が最も生かされた楽曲と言えるでしょう。そういった意味において作曲家バークリーは少ない言葉で多くを語る雄弁な詩人を想わせます。儚さと暖かみが微妙に融合された彼の最後のピアノの為の小品です。


試聴用データ→マズルカ


井田久美子     2006年 6月

 

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